多くの被災したみなさまへ応援メッセージ

同窓生の方から「被災された方々の力になれば…」と、『朝日新聞 ジェイヌード』(首都圏の20代30代の女性向けのフリーペーパー)2011年4月7日発行号掲載の齋藤薫さんのエッセイ「なまなましさと みずみずしさの インナースケッチ」が送られてきました。

 多くの被災なされた方々にこの応援メッセージが届きますように…。

なまなましさと みずみずしさの インナースケッチ vol. 108 齋藤 薫 日本人の評価

日本人のなかで もっとも忍耐強い人たち 「なぜ日本人は、あれほど冷静でいられるのか?」 「なぜ日本人はこんな時でも“他の人”のことを思いやれるのか?」 今回さまざまな国で、そういう評価とともに日本人気質を分析する記事が書かれ、それが日本でまた大きく報道された。パニックにならないこと、大騒ぎしないこと、物資を奪い合わないこと、みんな大変なのだからと我慢すること……。 単純に、日本人であることを誇らしく思った人は、もちろん少なくなかったと思う。でもこうも思う。評価されているのは、その報道が今はまったく届いていない被災地の日本人であり、「ああ、日本人でよかった」と思いながらテレビを見ている日本人ではないのだと。 東京でテレビを見ている自分も何かひどくバツが悪かった。確かに自分も被災していたら、やっぱり同じように整然と行列をつくるのかもしれないが、同じように褒められたら、やっぱり後ろめたさを感じるのだろう。 ひとつだけ確かなのは、東北の人々はやっぱり日本人の中でもとりわけ忍耐強いということ。以前、あるサービス業の人からこんな話を聞いた。何かトラブルが起こって、お客様を待たせることになっても、東北のほうの人々はほとんどクレームをつけず、静かに待っていてくれると。裏を返せば、別の地域には猛然と抗議する人たちがいるということ。地域によってこんなに“気質”が違うものなのかと思ったと。もちろん、クレームするもしないも個人の問題で、ひとまとめで語るわけにはいかないが、そういう逆境にあってギリギリまで我慢する人が東北人に多いことは確かなのだ。 それにしても今回、マイクを向けられた被災者から、いちばんたくさん聞かれたのは、「感謝しています」という言葉。おそらく、各局がそういうコメントを多く選んで報道したのだろうが、あの状況の中で「感謝する」という言葉があんなに出てくるものか。ふだん使い慣れていないと感謝の言葉ほど出てきにくいとも言われる。だからいよいよ日本人をまとめて褒められることに、負い目を感じざるを得ないのだ。

「しょうがない」は けっして諦めではなく 皮肉なことに、石原都知事(3月末現在)の驚くべき天罰発言は、批判が集中したことから後に撤回されたものの、“日本人は我欲をうまく洗い流す必要がある”という主旨だった。もちろん“政治”が我欲で動いているということを言ったのだろうが、同時に“日本人は積年たまった心のアカを押し流す必要がある”とも言っている。 つまり日本人が、評価されている部分を、それは真っ向から否定してしまうわけで、なぜそういう真逆の見方が存在してしまうのか? 確かに以前から、日本人には博愛の精神が足りないとはよく言われていたこと。言ってみれば、日本は長い間平和すぎて、不幸を目の当たりにする機会が少なすぎて、“博愛の精神”が育ちにくかったりしたかもしれない。でも心根にはそういうものが息づいているから、何事かが起きると、いきなり眠っていた博愛が目を覚ます人たちでもあるのだろう。 そもそも不幸に見舞われた人ほど優しくなれる。だから日本人は、被災からずっと目を離さずにいるべき。寄付して安心するのじゃなく、いったいどれだけ悲惨なことが続くのかを、ずっと見つづける。それで初めて博愛が目覚めるのだから。世界に褒められたことを今さら間違いにしちゃいけないから。 ただ、最初は日本人を“絶讃”していた外国メディアも、最近は少し“日本人って不思議”という論調に変わってきているとも聞く。あまりにもおとなしいから。 日本語にしかない表現に、「もったいない」という言葉があることは国連でも話題になり、すでに地球保護のための“もったいないキャンペーン”が存在するが、もうひとつ外国人にはいまひとつ理解できないという表現に「しょうがない」という言葉がある。つまり外国メディアはなぜ何もかも「しょうがない」と諦められるのか? そういう疑問を持ち始めているらしいのだ。 でもそこには逆にちょっと反論したい。日本語の「しょうがない」は、「しょうがない」と諦めて投げてしまう時の言葉じゃなく、「文句を言っていてもしょうがない」「悲しんでいてもしょうがない」「何かを始めなきゃしょうがない」と立ち上がるエネルギーに繋がる言葉なのだと。とりわけ東北の人はそういう意味の忍耐力と克己心と再生力に富んでいるから、じっとしていてもしょうがないと立ち上がる人々なのは間違いないから。 そういう意味で、自分にはもてない力強さをもつ人々が、同じ日本人であることには大いに誇りをもちたいが、むしろ今、日本人全員が大きく変わるチャンスなのだということにも心を砕きたい。評価された通りの日本人になるための。 東日本大震災の被災地の方々に、 心からお見舞い申し上げます。

さいとう かおる 女性誌編集者を経て美容ジャーナリスト/エッセイストへ。女性誌において、多数の連載エッセイを持つほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。『人を幸せにする美人のつくり方』(講談社)、『大人になるほど愛される女は、こう生きる』(講談社)、『The コンプレックス』(中央公論新社)、『なぜ、A型がいちばん美人なのか?』(マガジンハウス)など著書多数。